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マーケティング戦略と企業戦略の違いⅡ|マーケティング戦略シリーズ (7)
本稿では、マーケティング戦略の立案プロセス、企業戦略とマーケティング戦略の相違点、そして両者の密接な関係性について解説します。
マーケティング戦略の構成要素と作業の流れ
マーケティング戦略を策定するために不可欠な構成要素と、その作業プロセスについて以下の7つのステップに沿って進めることで、より精緻な戦略立案が可能になります。
1. 企業目標の設定
まず、企業が中長期的に達成すべき目標を明確に設定します。これは、マーケティング戦略全体の方向性や意思決定を支える基盤となる重要なステップです。
2.市場環境分析
市場の現状、成長性、顧客ニーズ、競合企業の動向など、市場を取り巻く環境を多角的に分析し、全体像を把握します。
3.現状分析と機会発見
市場環境分析の結果を踏まえ、マーケティングフレームワークなどを使い自社の強み・弱みを客観的に評価し、潜在的なビジネスチャンスや克服すべき課題を明確にします。
4.課題の設定
現状分析で明らかになった問題点を整理し、具体的な課題として設定します。この課題解決こそが、マーケティング戦略の核心的な部分となります。
5.マーケティングの基本戦略
市場における自社の立ち位置を明確にするポジショニング設定、狙うべき顧客層を特定するターゲティング設定、そして顧客に伝える独自の価値を定義するコンセプト設定を行います。
6.コミュニケーション戦略の立案
商品やサービスの認知度向上、購買意欲の喚起、顧客との関係構築を目的とした、販促、広告、広報などの具体的なコミュニケーション手段を設計します。
7.広告戦略の立案
コミュニケーション戦略に基づき、具体的な広告メッセージを開発する表現戦略と、ターゲット顧客に効果的に情報を届けるためのメディア戦略を策定します。
上記のように、マーケティング戦略を策定する際には、企業目標を起点とし、市場分析、課題設定、基本戦略の立案、そして具体的なコミュニケーション戦略へと、複数のプロセスを経ながら段階的に構築していきます。
企業戦略とマーケティング戦略の違い
企業戦略とマーケティング戦略は、企業の長期的な成功を目指す上で不可欠な両輪ですが、その目的と範囲には明確な違いがあります。
企業戦略とは
企業戦略は、企業が長期的に達成したい経営目標やビジョンを具体的に示し、それを実現するために必要な事業領域の選択、資源の最適な配分、競争優位性の確立を目指す全社的な戦略です。人材や資産、資金、情報などの経営資源を統合的に管理し、組織全体の方向性と優先順位を決定することで、持続的な成長と競争力強化の基盤を構築します。
マーケティング戦略とは
一方、マーケティング戦略は、企業の商品やサービスを市場や顧客に提供するための具体的な計画です。市場のニーズや動向、競合の状況、自社の強み・弱みを詳細に分析し、自社の製品やサービスをどのように差別化し、どのようなターゲットにどのようなメッセージでアプローチするかを明確にします。
マーケティング戦略は、企業戦略という大きな枠組みの中で、顧客との接点を創造し、市場における競争優位性を確立するための重要な機能と言えます。
このように、企業戦略は企業全体の方向性を示すのに対し、マーケティング戦略は市場における具体的な競争戦略を示します。企業戦略とマーケティング戦略の2つが軸となることで、企業の持続的な成長と目標達成が可能になります。
企業戦略とマーケティング戦略の関係性
企業の成功には、企業戦略とマーケティング戦略の整合性と相互連携が不可欠です。両者の関係性には以下のような特徴があります。
〈相互影響〉
企業戦略とマーケティング戦略は、互いに影響を与え合う関係にあります。企業戦略がマーケティング戦略の基本的な方向性を示す一方で、マーケティング活動を通じて得られた市場の動向や顧客の声は、企業戦略の見直しや新たな機会の発見につながることがあります。例えば、特定の顧客層からの強い要望が、新たな製品開発やサービス提供という企業戦略の変更を引き起こす可能性があります。
〈連動性〉
企業の目標を達成するためには、企業戦略とマーケティング戦略が緊密に連携し、一貫性を持つことが重要です。企業戦略が定めた長期的なビジョンや目標を、マーケティング戦略が具体的な市場戦略や顧客アプローチに落とし込み、実行することで、その効果を最大化できます。
例えば、企業戦略で「顧客満足度の向上」が目標に掲げられた場合、マーケティング戦略では、「顧客体験を重視した商品開発」「迅速で丁寧な顧客対応」「積極的なコミュニケーション戦略」などを推進することが挙げられます。
〈方向性と具体性〉
企業戦略が全体的な方向性や長期的な目標を示すものに対し、マーケティング戦略は、より具体的なターゲット設定、ポジショニング、プロモーションなどの実行計画を策定します。企業戦略が「何を目指すか」を示すなら、マーケティング戦略は「どのようにそれを達成するか」を具体的に示します。
〈組織のレベルと範囲〉
企業戦略は全社的な視点から策定され、組織全体の活動を網羅します。一方、マーケティング戦略は特定の事業部門や開発部門、あるいは特定の市場や顧客セグメントに焦点を当てて組み立てることが一般的です。
〈資源活用と顧客価値最大化〉
企業戦略は、限られた経営資源を効果的に配分し、企業の価値を最大化することを目指します。マーケティング戦略は、顧客ニーズに応じた価値を提供することで、顧客満足度を高め、企業の収益向上に貢献します。
〈経営環境と市場環境への対応〉
企業戦略は、経済状況、法規制、技術革新など、広範囲な経営環境の変化に対応するための基本方針を示します。一方、マーケティング戦略は、市場のトレンド、競合の動き、顧客の嗜好の変化など、特に市場環境の変化に柔軟に対応し、競争優位性を維持・強化するための具体的な手段を策定します。
これらの要素の相互作用によって、企業戦略とマーケティング戦略は補完し合い、企業の持続的な成長と競争力の向上に貢献します。
まとめ
本章では、マーケティング戦略の中核をなす企業戦略とマーケティング戦略の関係性について焦点を当てて解説しました。企業戦略とマーケティング戦略は、市場での競争優位性確立のためには、密接な連携が不可欠です。改めて、以下の重要なポイントを確認しましょう。
企業戦略の役割
企業戦略は長期的なビジョンと経営目標を定量化し、企業の進むべき方向性と資源配分を決定する、組織全体の基盤となる戦略です。
マーケティング戦略の役割
マーケティング戦略は、市場での競争力の優位性を確立するために、商品やサービスの差別化やターゲットへの効果的なアプローチ方法を具体的に計画する戦略です。
関係性と連携
企業戦略とマーケティング戦略は相互に影響を与え合い、その整合性と連動性が企業の成功を左右します。両者は、示す方向性や具体性のレベル、対象範囲、資源の活用方法、顧客価値の創造、そして、環境への対応という異なる側面を持ちながら、企業の成長という共通の目標に向かって連携し、機能します。
企業の持続的な成長と市場競争における勝利のためには、明確な企業戦略に基づき、市場環境に最適化されたマーケティング戦略を策定し、両者を効果的に連携させることが不可欠と言えるでしょう。
シリーズの続きは以下をご覧ください。
・第1章 企業や商品、サービスを魅力的に活かすマーケティングとは何か
・第6章 現状の問題点ならびにビジネス機会の洗い出しと課題設定
(ポジショニング設定/ターゲット設定/コンセプト設定)
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