Mirai Design
Meeting
左は、株式会社たき工房 アートディレクター長山大樹、右は株式会社大入 大入祥平様
奈良時代から継承されてきた伝統技術で、和本の装丁、文化財の修復、保存や複製などを手がける経師。今回は京都の経師、「株式会社 大入」のプロデューサー、大入祥平さんに、たき工房のアートディレクター、長山大樹が会いに出かけました。東京での展示商談会をきっかけに、保存に特化したフォトアルバム「八千代綴り」を共同開発した二人。これからの時代に息づく産業の姿、デザインの価値とは・・・。

 

生活に必要なものを作り、使ってもらってこそ産業

長山:大入さんの作られたもので僕が最初に拝見してすごいなぁと思ったのは、帙(ちつ=本を保護するためのケース)でした。共同プロジェクトの参考資料として見せていただいたんですが、ほんとに歪みもなく、中の本にぴったりですよね。

大入:ありがとうございます。日本の気候風土にも合うし、本にしっかり寄り添ってくれます。実際、これに包まれた本がきれいに残っているというのが、保存容器として優れているっていう、何よりの証拠や思うんです。

 

 

長山:今は大学図書館や豪華な装丁本を扱う出版社のお仕事が多いそうですね。

大入:はい、でもこれからはもっと顧客の間口を広げなければと思っています。とくに図書館や美術館のようなB to Bだけではなくて、B to Cの仕事になるような新規顧客を開拓したい。一般家庭で使われるものを作って発信したいですね。懐古主義というか、珍しくて貴重だからと保護されるのではなく、必要とされるものを考えて、作って、使ってもらうのが産業だと思うんです。

長山:東京での展示商談会で、たき工房に声をかけてくれたのも、そんな思いがあったからですか?

大入:そうなんです。それにはお客様の需要をどう掘り起こして、買いたい!っていう気持ちになっていただけるかということですよね。でも、今の人が喜ぶ形にアレンジするには、やっぱりデザインの力が必要なんじゃないかなと。そんな気持ちで展示商談会に行ったら、たき工房さんが出展されていて、伝統産業に関わる方々と組むような活動をしているってお聞きして。広告を制作してはいるけれども、自分たちのクレジットが載るような仕事もしたいと。・・・っていうことは、「もしかして求めるものが一致してる?」って。

長山:たき工房に見本品を持って来てくださったんですよね。製品にもすごく感動しましたし、新しいチャレンジをしたいっていう熱意も感じました。

大入:何か作っていこう!っていう時間って楽しいですよね。やがて待ち構えているであろう、いろいろなことへの覚悟もかためつつ(笑)。

長山:フォトアルバムの「八千代綴り」を作ろうということになりましたけれど、いざ始まってみるといろいろありましたよね。独特な結び方などお作法的なものがたくさんあるので、僕らからするとどこまで崩していいのかわからないし、何かを5mmずらしただけで不都合が出てきちゃうし。都度、こうしてみたいっていう提案を持ち帰って職人さんにきいてもらって。

大入:昔からの積み重ねで、ちょうどいいバランスに行き着いたものなので、それがちょっと変わるだけで崩れちゃうんですね。でも長山さんにお願いして何よりよかったのは、やはりうちだけではぜったい思いつかないようなデザインでした。そこを脱却させてもらえたのは、すごく大きなことでした。

長山:逆に、大入さんにとっては当たり前のものが、僕達にはかえって斬新、というのもありましたよ。発見もたくさんありました。紙やその使い方に対する知識がほんとに豊かで。

大入:知識が縛りになっちゃうこともありますけどね。でもそこを乗り越えることこそが大切だと思っていました。スムーズにいかないっていうことは、他が真似しにくいっていうこと。それが今、証明されているんだ、ということでもありますからね。

長山:たしかに乗り越えることが今回の共同開発の意味でもあったと思います。単なる発注ではなく、対等に新しい何かを探るところから一緒にやっていく。しかも違う分野の人、京都ですごいものをつくってきた方達とゼロから一緒にモノを生み出すっていうのも貴重な機会でした。

大入:ビジネスの面でもすごく勉強になりました。長山さんたちは日本の広告の最先端のお仕事をされてるじゃないですか。SNSを使っている若い人にどう響くのかもリアルタイムで把握している。そういう仕事ぶりを目の当たりにできたことが大きくて。今の人達は、自分がいいと思うものじゃなくて、人から褒められるものを選ぶ傾向にあるっていうのも新鮮な視点でした。あと、私達が持っているプロモーションの手立ては限られてしまっているので、動画という形で発信できたのはほんとにありがたいことでした。80年代、90年代って、伝統の世界は「謎めいている」方が重厚感があって良かった。でも今は情報開示、情報演出が大切だと思うんです。そういうところでも手腕をふるっていただいて、感謝しています。

 

 

新たな道筋の開拓は、人生をかけてチャレンジするべきことのひとつです

長山:多くの伝統産業では後継者不足が課題になっていますが、こちらには若い職人さん達もたくさんいらっしゃるんですね。

大入:ありがたいことに、募集をかけるとけっこう来てくれるんです。それはやはり、今は美術館、大学図書館や出版社などからのお仕事があって、食べていける会社であるというのが大きいと思います。やっぱり普遍的に報酬として約束できるのは、お金なんですよね。でも今後のことはわかりませんし、もっと生活の中にも息づきたい。なので、これからの伝統産業においては、職人の方達に存分に腕をふるってもらえる道筋を開拓できる人がいないといけないと思うんですね。国も後継者を育てる学校をつくったからといって、仕事を探してくれるわけではありませんし。

長山:技術は技術で大事だけれども、それが届く場所をつくるという役割が必要ということですね。

大入:そうです。とくにこれからは。でも職人である父は「そういうことを考える人間は職人にはなれへん」と。それを職人がやったら在り方にブレが生じて、クオリティが下がっちゃうかもしれない。自分の培ってきたことをあますことなく体現することが職人の使命でもあり、醍醐味なんですね。なので私は営業職に就いて、むしろ伝統産業の新しい展開を生み出していけるプロデューサーになれるように、今、修行を積んでいるつもりです。新たな道筋の開拓は、人生をかけてチャレンジするべきことのひとつかなと思っています。

長山:僕自身もデザイン作業そのものより、デザインが価値や効果を発揮できる道筋を開拓することに、意識的に時間を割くようになってきました。制作にあたってくれる若いデザイナーたちもモチベーションが高く、楽しんでやってくれているのがうれしいです。

大入:うちの職人たちもやる気満々なので、ほんとにありがたいです。お互いが無茶言い合わないといけないときもありますから、こういう目的とコンセプトのもとに作ってますよ、という説明はちゃんとするようにしています。敬意を払うことは大事ですよね。媚びへつらってしまったら、それはかえって不信感を生んでしまうと思いますけど、相手のことをちゃんと理解せなあかんなとは思ってやっています。

長山:プロジェクトを進める中で印象的だったのは、職人のみなさんの動きの美しさでした。プロモーション動画のためにお父様を撮影させていただいたときも、仕事場を見せていただいたときも感じたのですが、無駄がなくて、リズムがあって、音を聞いていても見ていても気持ちいい。作法の美を感じました。

大入:父の教えの中に「早く、丁寧に、美しく」っていうのがあります。難しいことを簡単そうにできるようになって一人前と。

 

 

長山:みなさんは専門の学校を出ているんですか?

大入:いえ、その必要はなくて、ここで仕事をしながら学んでいきます。学術的なアプローチと、実際のアプローチはけっこう違ったりもしますし。ただ最近は、お客様に「何年持つのかなどをちゃんと数値化して論拠を提示してください」と言われることがあって。積み上げてきたものを信じていただければと思うんですが、これからはそういうご要望に、論理的に対応できる新しいタイプの人材も必要なのかなぁと考えたりします。

長山:私達も、「この広告を掲出したら、どのくらいのお客様が反応しますか」ってよく聞かれます。広告の場合、サイトのクリック数や、見ている時間などの数値はとれますけど、技術的なことを知っていてかつ客観的にものが見える、コミュニケーション力が高い人は、やっぱり必要です。どこの業界でも求められている人材かもしれませんね。

 

 

若い人たちに、良いものと触れ、生活が豊かになる体験を

大入:製品を買っていただくために、プロデューサーとしてもうひとつ考えなければいけないのは、どうしたらお客様が良いものに価値を見出してくださるようになるか。押し付けとか洗脳になってはいけないので難しいですけど。

長山:そうですね。展示商談会でも、クオリティの良さをわかってくださるのは年配の方が多かったのですが、若い人たちにもわかってもらえたらうれしいですね。

大入:とくにバブル期を経験した方は、お金をどうかっこよく使うかを考えていたり、いいものに触れたりしていたから、目が肥えている人も多いんです。今はどうしたらちょっとでも払わんで済むかっていう人が多い。最近よく聞くのが、御朱印帳も安価なものを何冊も持って、お友達とシェアして、自分のかわりに押してきてもらったり、それをネットで売ったりという事が流行っているそうですね。でもちゃんと本来の意味を知って、人生の大切な記念として御朱印をいただこうっていう気持ちになれば、いいものがほしくなると思うんですよね。

長山:世の中が便利になった分、本当に良いものに触れる機会が減ってしまったのもひとつの要因じゃないかと思います。良いものを取り入れることで、生活が豊かになるという体験をしてもらう機会も必要かもしれないですね。

大入:そうですね。実は「日本文化について学ばせたい」というコンセプトのもと、子供や学生達に話してほしいというご依頼をよくいただくんです。テーマは和本に関してですが、良い品はちゃんとメンテナンスをして永く使えること、使えば使うほど使用者に馴染んで、より良いものとなっていくことなどを、随所に織り交ぜて話しています。体験教室とかも、きっかけがあれば開いてみたいなと思っているんですけど。

 

 

長山:話すときに大事にされてることってありますか。

大入:「みんなの生活の中に、日本文化はちゃんと息づいてるんだよ」ってわかってもらうことでしょうか。日本の工芸品の良さって、それぞれの素材の特性を知って、それらが一番活きるところにエスコートすることだと思うんですね。異素材のものが、調和をもってそこにおさまっていることの大切さ。それはそのまま人間関係にも言えるよねって。
あとは多角的なものの見方を培うきっかけにもなります。古いものの真贋を判断するときに、書かれている内容ではなくて、紙のほうを見るとわかるときがあるんです。書いた人の位とか相手との上下関係とか。

長山:うちの子供にも聞かせたいな(笑)。

大入:ものづくりに興味や理解を持ってくれている人たちが育てば、仕事もいい形でできると思うんですよね。お客様と今何をやっているのかっていう共通意識を持つことがすごく大事だと思うので。

長山:発注する側、される側、という距離を作っちゃうんじゃなくて、1個のものをきちんと直すっていうプロジェクトを一緒にやれるチームのような関係づくりができると理想的ですよね。デザインも、オリエンテーションの段階からざっくばらんにディスカッションできて一緒に戦っていけると、いいものが生まれやすいなと思います。

大入:逆に馴れ合いになってはいけないところもありますよね。「八千代綴り」でそうしたように、分担するべきところはきちんと分担して、かつ一緒にプロジェクトに臨めたら、最大限のパフォーマンスを発揮できると思います。

 

 

4本足の伝統技術に、デザインの持つ1本足の美しさを

大入:でも「八千代綴り」もこれからつくるものも、プロダクトとして生活の中で機能させることを考えると、課題はたくさんあります。一般家庭の中で取り入れてもらいたいですね。

長山:一般家庭に入っていくチャンス、まだまだあると思います。ものを持っていることが豊かさだった時代から、今は余計なものは持たないという方にシフトしています。でも、子供の撮影スタジオに行くと結構これが高いんだけれど、それでも親は子どもの記念を残したいからと払うんですね。これはと思うものは大事にするし、お金も払う。その中に入ることができるかが、鍵だと思うんです。

大入:そういうお客様の需要をどう掘り起こしていくか、買いたいという気持ちになっていただけるか…。

長山:どう世の中にそれを発信していくか。まだまだ挑戦は続きますね。

 

 

大入:私は会社の中で、自分はとかげの尻尾くらいのポジションだと思ってるんです(笑)。いざとなったら、自分が悪評をかぶればいい。他の人は前に進めるはずだから。そのくらいの覚悟を持って、とにかくできることはやってみようと思うんです。

長山:僕もこれから「八千代綴り」を商品として成長させるのと同時に、これを土台に、今後一緒にできるプロジェクトがまた生まれたらいいなと思っています。

大入:うれしいですね。経師の仕事や伝統について、父は「つぶれたらそれはもう、時代にいらんもんなんや」って。まったくそうだと思うんです。その上で、私達は経師の仕事は現代社会にとって確かに必要なものだと信じています。ちゃんと経師のできることに価値が見出せるのであれば、皆さんのお力もお借りして、今の産業として、これらのプロダクトを日常に息づかせる道筋を探していきたいと思います。

長山:そうなっていったときには、若いデザイナー達にも参加してもらえたらと思います。僕自身、普段触れられない伝統を身近に感じたり、デザインが果たす役割を意識できてほんとに良かったと思っているので、彼らにもそれを体験してほしいんです。きっとアウトプットのクオリティも上がってくるだろうと思います。

大入:これは私のイメージなんですけど、クリエイティブなものってセンシティブで不安定なものやと思うんですね。4本足ではなく、1本足。そのほうが美しい。バレエとかもめちゃくちゃ無理な体勢で踊るじゃないですか。やっぱり不安定なのに成り立っている凄さが、アーティスティックなものの素晴らしさだと思うんです。でも、私達は職人、クラフトの分野の人間です。それはちゃんと4本足で立っているものを作るのが仕事になります。そこを打ち破ろうとして実用性や品質が下がってしまったらいけないんです。だからうまくデザインの持つ1本足の美しさをとりいれていく、お互いの力を出し合っていけるのが理想かなと思います。

長山:僕にとってのデザインは、新しい商品やサービスをより深く知ってもらったり、それを使うことによって、より豊かになる生活を想像してもらうきっかけを作るもの。企業が伝えたいことを、分かりやすく代弁する存在です。でも今の言葉を聞くと、デザインの役割もスケールが広がってうれしいですね。

大入:本当ですよ。歴史や伝統を今の社会にフィットするようにするわけですから。

  • OIRI SHOHEI

    大入 祥平

    京都府京都市出身。「経師」という和本製作の専門職を今に引き継ぐ株式会社 大入に営業担当として勤務。昔ながらの仕事も守りながら、現代社会において活用されるための企業の在り方について模索する。自らが講師役を務める、和本に関する講義やワークショップ等も各地で展開。
  • NAGAYAMA HARUKI

    長山 大樹

    バンタンデザイン研究所卒業。2004年、株式会社 たき工房入社。アートディレクターとして、グラフィックからデジタル、ムービーまで幅広い領域で様々な広告プロモーションに携わる。同社のプロダクトブランド「TAKI PRODUCTS」の中心メンバーとしても活動。また、日本の木材を使用した日々の生活を豊かにするプロダクトブランド「Wood market soo soo」も主宰。

対談を終えて〜長山の眼

僕は新しいことにチャレンジするのが好きだし、そうしていかないと、これからの時代、デザインで課題を解決できなくなってしまうんじゃないかという危機感も強く持っています。なので大入さんのチャレンジする姿勢にあらためて共感しましたし、そういう精神を持っている人と高め合いながら作業ができることをうれしく思いました。
また、商品を世の中に発信していくにあたっては、デザインって大事なんだっていうことをあらためて認識させてもらい、自信と責任をより強く持つことができました。

もうひとつの収穫は、立場を超えてものづくりができたことです。制作スタッフともクライアントさんとも、チームメイトとして意見が出し合える関係づくりを心がけて、ときには、その商品やサービス、企業の課題となっている部分まで、気をつかわずに話し合えることの大切さを知りました。今後の大入さんとのプロジェクトにはもちろん、その他の仕事でも、こういった経験を活かして、いつまでも必要とされるクリエーターを目指したいと思います。

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