TAKI Magazineー 制作における『知』を紐解く ー
ブランドの成長という名の孤独とその先に
お問い合わせは増えた。数字も伸びている。
でも、「応援しています!」という熱い声が、なんだか遠くなった気がする――。
最近、こんな声をよく耳にします。SNSでも、セミナーでも、ブランド担当者の方々が同じような違和感を口にしている。成長期のブランドが抱える、この”温度”の問題について少し考えてみました。
目次
ブランドの「約束」と約束がもたらす「記憶」
ブランドの成長は、非常に喜ばしいものである一方で、多くの企業が必ず直面する「ジレンマ」を伴います。初期の熱狂的なファンに支えられた手作りのような時代から、より広い市場にリーチし、スケールを求める段階への変化。それは、まるで熱意あふれるベンチャー企業が、大手企業のような効率性を求められる瞬間に似ているかもしれません。
ブランドの本質は、単なる製品やサービスを売ることではありません。それは、お客さまの心に深く刻まれる「約束」と、その約束がもたらす「記憶」を築くことです。
たとえば、Appleが単なるコンピューターやスマートフォンを売るのではなく、「創造性を解放するツール」という約束を届け、その記憶を顧客に刻み込んでいるように。あるいは、スターバックスが「第三の場所」という約束で、人々の日常に安らぎと繋がりをもたらす記憶を築いたように。
これらのブランドが持つ真の強みは、数字やデータでは測りきれない、顧客の感情に根ざした「非合理的な価値」にあります。しかし、多くの企業が日々、この非合理的な価値を、効率の名の下に切り捨ててはいないでしょうか。この自問自答こそが、成長期にあるブランドが向き合うべき、最も重要な問いなのかもしれません。
効率と温度の板挟み──デジタル時代に揺らぐブランドの鼓動
ここ数年、マーケティングの効率化が急速に進んでいます。メール配信やSNS運用の自動化ツールが普及し、多くの顧客リストへのアプローチが可能になりました。業務は効率的になり、その成果も目に見えて現れています。しかし、その過程で、お客さまとの間に見えない「壁」ができてしまったのではないか。そんな声が増えているように感じます。
以前は、お客さまへの返信一つひとつに、心からの感謝を込めて返していた。でも今は、テンプレート化された自動返信が主流です。お客さまからの声が「ありがとう」から「この商品、いくらになりますか?」という事務的な問い合わせに変わっていく時、ブランドが持つ本来の輝きが、いつの間にか効率という名の影に隠れてしまっている。そんな気づきが生まれます。
ビジネスである以上、売上や効率を追求することは必然です。しかし、お客さまに心から「好き」と思ってもらえるブランドと、ただ選ばれるだけの「商品」の間には、埋めがたい溝があります。自社のブランドは今、その溝のどちら側にいるのだろうか。日々の業務に追われる中で、そんな問いかけが必要なのかもしれません。
ブランドの「熱源」は、決まり文句の裏側にある
ブランドとは一体何だろうか。その答えは、難しいブランディングの解説書や、派手な成功事例の中にあるのではありません。日々のささやかな出来事の中にこそ、その「熱源」は隠されています。
例えば、社内での何気ない雑談。プロジェクトの合間にメンバーがこぼす、「この製品、本当に使いやすくて最高!」といった素直な称賛の言葉。それらは、ブランドの誇りが自然とにじみ出ている瞬間であり、ブランドの「熱」が確かに存在している証拠だと言えるでしょう。
あるいは、お客さまが「なんだか優しくも温かい感じがしました…」と話された瞬間。その言葉から、企業の『想い』が確かに届いていると気づかされる。それは、データや数字では測れない、確かな手応えです。
そして、「会社としての強みは何ですか?」と聞かれたとき、決まりきった言葉を並べるのではなく、「メンバーそれぞれが、誰よりも自分たちのブランドを大切に思っていて、その誇りを日々感じているんです」と自然に答えられる組織こそが、本物の「熱を持ったブランド」をつくれるのではないでしょうか。
心に火を灯す「ブランドジャーニー」を、共に歩むことこそ
ブランディングとは、ただ派手な広告を出したり、きれいなロゴをつくったりすることだけではありません。本来あるべき理想の姿は、ブランドの持つ「熱源」にそっと寄り添い、それを言葉やデザインで可視化していくこと。そして、その熱をお客さまの心に届け、共感の輪を広げていくことではないでしょうか。それは言い換えれば、顧客がブランドと出会い、関係を深め、やがてファンとなるまでの長い旅路、「ブランドジャーニー」を共に歩むことと言えると思います。
最近のブランディング論では、マニュアル通りの手法ばかりが注目されがちです。でも本当に大切なのは、日々の小さな悩みや、社内で交わされる生きた言葉、見落としがちな「温度」なのではないでしょうか。
どれだけ知識やスキルを磨いても、現場で実感するのは「やっぱりブランドに”温度”は欠かせない」ということ。だからこそ、難しいことを無理してやるのではなく、「できる範囲でいいから、今日の小さな熱意に目を向けていこう」という姿勢を持ち続ける。それこそが、ブランドにとって最も柔軟で、そして持続的なエネルギーになるのかもしれません。
終わりに──「小さなつぶやき」が、ブランドの未来を拓く
ブランド運営に「正解」はありません。現代に生きる企業やブランドのすべてが、同じような悩みや遠回りを何度も繰り返しつつ、それぞれが自分たちなりの「熱源」を守っているのだと思います。
ただ、今日感じた戸惑いや気付きは、明日からのブランドの核になってくれるかもしれません。本当に大切なのは、ただのビジネスではありません。ブランドに情熱を注ぐスタッフと、その先のお客さまとが互いの「想い」を分かち合える瞬間です。同じようにブランドについて悩み、時には迷う方々にとって、この小さなつぶやきが何かのヒントになれば幸いです。
データでは測ることができない、ブランドの「熱」の物語
ブランド運営の現場では、日々膨大なデータが蓄積されます。しかし、本当の感動は、数字の裏側にある物語の中にこそ隠されています。
ある企業の事例で印象的だったのは、顧客から届いた手書きの手紙でした。そこには「売上も上がったけれど、何より顧客と社員の笑顔が増えた」とあったそうです。売上グラフのどの数字よりも、ブランドが持つ本当の価値を強く感じる瞬間。データが示す「効率」とは全く異なる、ブランドの「熱」が、確かに誰かの心に届いている証です。
内側から生まれる、「誇り」という熱源
ブランドの熱源は、お客さまの声だけでなく、組織の内側にもあります。「この会社に憧れて入社した」という新入社員の声。こうした純粋でまっすぐな言葉こそが、企業が大切にしてきた熱意が、新しい世代に確実に受け継がれている証なのかもしれません。それは、どんなマーケティング施策よりも雄弁に、そのブランドの未来を語っているのです。
あなたのブランドは、今、どのような「約束」をしていますか? そして、その「熱源」を、どのように守っていますか? 日々の『小さなつぶやき』に耳を澄ますことこそが、ブランドの未来を拓く道となるのです。

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