TAKI Magazineー 制作における『知』を紐解く ー
企業やブランドの本質を視覚化するVIの制作のプロセスとは。
VIは、CIを構成する重要な要素のひとつであり、企業やブランドの価値を可視化し、その本質を正しく伝えることを目的としています。ブランド構築に欠かせない存在であり、信頼や安心感を育む上でも大きな役割を果たします。
企業やブランドの「らしさ」を、言葉だけで伝えることは容易ではありません。そこで重要となるのが、VI(Visual Identity/ビジュアルアイデンティティ)です。VIは、企業やブランドの本質を視覚的に表現することで、認知や共感を獲得し、ブランド価値の向上に寄与する戦略的ツールです。
本記事では、VIの意味や意義を整理するとともに、企業やブランドの価値を最大限に引き出すVIの開発プロセスを解説します。
目次
VIとは、MIを視覚化したもの
VIの制作プロセスの説明をする前にまずVIとは何かを整理しましょう。企業やブランドの本質は言葉だけでは十分に伝わりません。そこで視覚情報を活用し、ブランド理解を効率的に促す手段として、VIが用いられるのです。
VIは、MI(Mind Identity/マインドアイデンティティ)、つまり企業の理念やビジョンを視覚化したもので、言い換えると、「ロゴ」「シンボルマーク」のことを指します。VIを制作する際、デザイナーは感性やデザイン感覚だけでなく、企業やブランドの歴史、商品・サービスの変遷、市場や競合、消費者ニーズなどを調査・分析し、本質を捉えた上でデザインコンセプトを設計します。
こうしたプロセスを経ることで、企業らしさやブランドらしさを反映したデザインが生まれます。そのため制作にかかる時間の多くは、“企業やブランドの本質を探り、オリジナリティを追求すること”に費やされます。
VIの視覚的イメージの統一と重要性
企業やブランドのVIが、接点ごとに異なる表現で使われてしまうと、印象がぶれ、ブランド認知も高まりません。それどころか、これまでのブランドストーリーを損なってしまうこともあるでしょう。
発信するすべてのものに一貫した視覚的イメージを持たせることで、初めて受け手に認識され、企業らしさ・ブランドらしさを正しく伝えることができます。ブランドイメージを形成するのはあくまでも受け手。だからこそ、視覚的イメージの統一は非常に重要なのです。
VI制作の2つの方向性(新規/刷新)
新サービスや商品を開発する際に、新たにVIを設計するケースがありますが、その一方で既存のサービスや商品を長く展開していく中で、「現在のVIが実態に合わなくなってきた」という理由で作り直すケースもあります。この場合は、既存のVIのフォルムやカラーを調整して洗練させる「リファイン」と、ゼロから再設計する「リニューアル」の2つのアプローチがあります。
時代や社会情勢の変化に伴い、シンボルマークやロゴをリファイン・リニューアルする企業も増えてきました。シンボルマークやロゴは、企業らしさやブランドらしさ(想い・価値)を可視化したものであり、VIの中心的存在です。長期にわたって使用されるため、揺るぎない最適なデザインに仕上げることが重要です。
ロゴの種類と特徴
VIとは、端的に言えば「ロゴ」のことを指します。そしてロゴは、シンボルマーク、ロゴマーク、ロゴタイプを含む総称で、企業やブランドの印象を強く伝える役割を持ちます。優れたロゴは記憶に残りやすく、デザインの意図も短時間で伝えることができます。
代表的なロゴの種類は以下の通りです。
・ロゴマーク:シンボルマーク+ロゴタイプの組み合わせ
・ロゴタイプ:文字列を図案化したロゴ(社名・ブランド名・商品名など)
・シンボルマーク:企業や団体を象徴する図案
・ステートメントロゴ:メッセージやステートメントをロゴ化し、他のロゴ要素と組み合わせて使用
実際の運用では、場面や目的に応じてこれらのロゴを使い分けることで、ブランドのイメージをより効果的に伝えることができます。
3つのVI開発基本プロセス
VIの概要を整理したところで、ここからはVI開発の基本プロセスを見ていきます。VI開発は、いきなりデザインに着手するのではなく、「企業らしさ」「ブランドらしさ」の本質を言語化するところから始まります。デザイナーはヒアリングなどの情報収集を通じて、企業の歴史・商品・サービス・市場・競合・消費者ニーズを分析・整理し、その上で企業やブランドの想いを言語化します。ここで不要な要素を削ぎ落とし、核となるデザインコンセプトを導き出すことが重要です。
このプロセスが不十分だと、デザインは表面的になり、訴求力を欠いたものになってしまいます。逆にしっかりと言語化できていれば、完成に向けてのデザイン手法の選定や制作も一貫性を持って進めることが可能です。
VI制作は、以下の3つのフェーズに分けて行います。
①デザイン要素開発
ロゴやシンボルマークなど、VIの中心となる要素を制作。
②デザインシステム開発(VIマニュアル/ロゴマニュアル)
運用ルールを定め、一貫したコミュニケーションを実現。
③アプリケーション開発
ロゴやマークを基に、名刺・封筒・広報ツールなどに展開。
このように体系立てたプロセスを踏むことで、企業の本質を的確に表現し、伝わるVIを構築することができます。以下で詳しく解説していきます。
①VIにおけるデザイン要素の開発
VI制作は、単なる感性や直感に頼るものではなく、MI(Mind Identity)を視覚的に表現するプロセスです。言語化された「企業らしさ」や「ブランドらしさ」を基盤に、そのイメージに合った世界観を構築し、個別のデザイン要素を整理・統合したうえでビジュアルに落とし込まなければなりません。
このプロセスを支えるのが「視覚監査(Visual Audit/ビジュアルオーディット)」です。VI制作に着手する前に、視覚監査によって既存サービスやブランドの現状を把握しておけば、より伝わりやすいデザインに仕上げることができます。視覚監査では、具体的に以下のような監査を行います。
・社内・社外のヒアリング
消費者グループインタビュー、経営者・社員へのアンケートを通じ、ブランドロゴの使用状況、認知度、強み・弱み、ロイヤリティを確認します。
・既存アイテムの確認
広告、印刷物、コーポレートアイテム、サイン、Webなどを点検し、使用上の問題点や展開の制約を把握します。
・UX・競合分析
ユーザー体験(UX)の観点で現状を評価し、競合との差やブランド意識とのギャップを明確にします。この調査により、ブランドの現状と課題が可視化され、VI開発の方向性を定める基盤が整います。基盤が整ったら、次は具体的にどのようにビジュアルに落とし込むかを検討します。このプロセスは、以下の4つの工程を経て完成します。
ビジュアルイメージの検討
企業らしさやブランドらしさをビジュアル化するには、言語化したコンセプトを具体的なイメージに変換する作業が欠かせません。その際、コンセプトに沿った複数のイメージ写真を収集し、コラージュとしてまとめれば、世界観を視覚的に整理することができるでしょう。そのうえで、言語化されたコンセプトと照らし合わせながら、最も適した表現を導き出します。
イメージカラーの設定
企業らしさやブランドらしさをビジュアル化する際、色(カラー)はとても大切な要素です。色が持つイメージは、私たちの心に影響を与えるとも言われています。例えば、「赤色」は熱さや情熱、エネルギー、そして派手さを感じさせ、気分を高めてくれる効果があります。一方で、「青色」は冷たさやクールさ、すっきりとした印象を与え、心を落ち着けたり、冷静さをもたらしたりする効果があると言われています。このように、企業やブランドの特性に合った色を選ぶことは、非常に重要な要素となっています。
フォントの選定
企業らしさやブランドらしさを表現するうえで、フォント選びは欠かせない要素です。曲線的でやわらかい印象を与えるフォント、細く直線的で幾何学的なフォント、太く力強いフォントなど、形状や太さによって伝わるイメージは大きく変わります。さらに、子供向け・女性向け・レトロ風・手書き風といったスタイルごとにも特徴があります。こうした中から、ブランドの世界観を損なわないフォントを選定することが重要です。場合によっては、既存のフォントではなくオリジナルフォントを開発するケースもあります。
デザインの精緻化
「精緻化(せいちか)」とは、細部にまで手を加え、より完成度の高い状態へと仕上げていくことを指します。VI制作においては、形状・バランス・色彩などを丁寧に整え、洗練されたデザインへ高めていくプロセスが「精緻化」にあたります。これは専門的な知識と豊富な経験が求められる、極めて重要な工程です。このような工程を経ることで、ユーザーにサービスや商品などの価値や存在意義が伝わるVIを制作することができます。どれも非常に重要な工程のため、しっかりと作業を進めるようにしましょう。
②デザインシステムの開発
デザイン開発と同様に欠かせないのが「デザインシステムの開発」です。一般的には「VI マニュアル」や「ロゴマニュアル」と呼ばれ、ロゴやシンボルマークをはじめとするデザイン要素を正しく運用するためのガイドラインをまとめたルールブックです。名刺や封筒、社章などのアイテムに展開する際にも、一貫性のあるコミュニケーションを行う基盤となります。マニュアルの主な構成要素は以下の通りです。
・カラー設定
・保護エリア(アイソレーション)の規定
・最小サイズの指定
・指定書体(推奨書体)
・使用禁止例
・スマートフォン画面対応ガイドライン
・Webガイドライン
・アプリケーションデザインの規定
など
マニュアルのボリュームは数ページから数百ページまで幅広く、制作期間も数週間で済むものから、緻密な内容であれば2年近くかかるケースもあります。CI(コーポレートアイデンティティ)戦略を確実に運用するためには、このデザインシステムが不可欠です。
③アプリケーション開発
完成したVI(ロゴやシンボルマーク)は、名刺・封筒・社章・広告・販促物など、企業活動で使用するさまざまな「アプリケーションツール」に展開されます。ここで重要なのは、すべてのツールで一貫したイメージ(世界観)を保ち、市場や社会に浸透させることです。また一貫した世界観の展開は、企業活動の円滑化にもつながります。企業やブランドの統一された世界観を社内外に示すため、マークやロゴのベーシックデザインを基に、イメージを崩さないアプリケーション開発を行うことが重要です。
例えば、以下のようなツールを制作します。
1. 基本的なツール
名刺・封筒・社章・腕章・ペーパーバック・プレゼンシート・テンプレートなど
2. 販促物
フライヤー・ダイレクトメール・商品カタログなど
3. 広報関連
会社案内・入社案内・プレスリリース・メディアキット・ニュースレターなど
4. ウェブ関連
コーポレートサイト・ブランドサイト・サービスサイト・採用サイトなど
5. サイン
塔屋看板・袖看板・突出し看板・自立看板など
6. 環境・店舗
オフィスの内外観・工場の内外観など
7. 輸送関連
営業車両・輸送車両・重機車両・船舶・航空機
8. ユニフォーム
服・帽子・ワッペン・ネクタイ
9. ノベルティ
カレンダー・クリアファイル・ボールペン・タオル・エコバッグ
ロゴ活用と商標登録の重要性
VIが完成した時点で「これで完了」と考えがちですが、長期的にブランド価値を守るためには、商標登録(Trademark Registration/トレードマークレジストレーション)を行うことをお勧めします。
企業やサービスのロゴを無断で使用されると、ブランドに悪影響を与える可能性があります。これを防ぐため、企業名や商品名とセットで商標登録を行い、商標権を取得することで権利侵害のリスクを回避できます。
登録には出願状況に応じて通常半年〜1年程度かかるため、タイミングを見て対応を検討しましょう。
脈々と受け継がれるVI制作を目指して
VIには、時代に合わせて変化していくものもあれば、長い年月にわたり揺るぎない価値を築き上げてきたものもあります。しかし、どのVIにも必ず「最初の一歩」がありました。大切なのは、その一歩を確かなものにすることです。VIは、時代を超えて愛されるブランドを育てるための出発点です。プロセスを意識して取り組むことで、企業の想いを正しく届け、顧客との強い絆を築いていくことができるでしょう。
■VI開発については、こちらの資料でも詳しくご紹介しています
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