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執行役員・クリエイティブディレクター
國井丈嗣

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こんにちは。たき工房で執行役員を務める國井丈嗣です。執行役員という管理職でもありますが、クリエイティブディレクターとして実務も行っており、近年では特に中国での案件に多く携わっています。そこで今回は、私の経験を元に、海外で働くことの面白さや難しさ、文化や国境を越えたデザインについて感じたことをお話したいと思います。

國井丈嗣
1991年入社。グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、ゲーム事業部やWEB事業部での実務を経験したのち、2010年に執行役員に就任。その後は海外事業への進出や海外でのインスタレーション展示などさまざまな事案に携わりながら、執行役員兼現役クリエイティブディレクターとして社内外で活躍しています。

CI/VI改訂を通じて、教育事業ブランドの品質や魅力を伝える

私は1991年にグラフィックデザイナーとして入社し、現在に至るまでさまざまな事案に携わってきましたが、近年では海外、特に中国での案件に多く携わらせて頂いています。中でも自分にとって印象深く、また海外での仕事の醍醐味を感じたのが、株式会社ベネッセコーポレーション様の幼児教育「こどもちゃれんじ」の上海市場におけるCI/VI改訂とブランド浸透を目的としたプロジェクトです。

ベネッセコーポレーション上海事業

ベネッセコーポレーション様は、以前より中国市場に進出しており、日本でも有名な「しまじろう」は、中国では「巧虎(チャオフー)」という名前で広く知られているなど、確かな実績を残されていました。しかし一方で、巧虎が教育のブランドではなく、子どもが好きなおもちゃやアニメのブランドという認識を持っている人が少なくないという現状がありました。そこで、提供している教育事業の品質や魅力を改めて中国市場に発信していくことを目的として、中国で展開しているCI/VIを改訂し、社内外へブランドを浸透させることになったのです。

このプロジェクトは、CIの見直しに始まり、VI、教材、販促ツール、イベントや商業施設の教材展示スペースに置かれる什器のデザイン、保護者向け冊子の制作、さらには現地デザイナーのCI/VIの理解度を高めることを目的としたワークショップの実施など、多岐にわたる業務を任せて頂きました。

ベネッセコーポレーション上海事業

一度かたまったものを変える難しさと変化への意思

仕事を通じ、現地のデザイナーたちとの交流を重ねる中で感じたことは、世の中が変わり好まれるデザインも変わっているという背景を頭で理解した上でも、長年続けていた考え方ややり方を実際に変えることはなかなか難しいという点でした。

事業を拡大していくフェーズでは、提供する商品やサービスに価値をのせていくという思考が中心になることがあると思いますが、現地のデザイナーたちの意識も「足し算」に向く傾向がありました。私が一緒に仕事をしたのがインハウスデザイナーだったこともあり、社内事情に明るい分、どうしても削れない要素を多く抱えているため、要素や色数、装飾の多いデザインになりがちで、楽しさや面白さといった印象を与えることは得意なのですが、その反面で「品質」や「教育的効果」を伝えることを少し苦手としていました。

ただ、本人たちもその点は理解しており、自分たちのデザインをより良くしたいという思いも強く持っていました。しかし、新しいことに挑戦する勇気や、それで良いのだという確証が持てていないが故に、どうしても「足し算」になってしまっていたのでしょう。

デザインは感覚的な部分も多く、論理的にマニュアル化できるものではないので、こればかりは自分たちで気付き、少しずつ改善を重ねていってもらうしかありません。
実際の案件の中で、困った事案やうまくいった事案を見せてもらい、それらに対して明確な理由を添えたデザインディレクションを行うことで、新しいデザインガイドラインに慣れていってもらいました。
その結果、単純に見た目をきれいにしたり、面白くしたりするだけのデザインではなく、伝えるべきものをしっかり中心に捉え、且つ発信される場所や受けとる人を考慮したデザインに大きく変わっていきました。
短期間の中で取り組んで頂いたにも関わらず、ここまでの結果が出たということに、デザイナーの皆さんや、彼らを支える上司の方々の努力に、私自身が感動させてもらいました。

ベネッセコーポレーション上海事業

日本と中国で、異なる部分、共通する部分

また中国の社員の方々は、日本で私が普段接する方々よりも理論的な印象も受けました。どのようなことでもしっかりと言語化し、理論としてしっかりと理解したいという思いが強くあるようです。

少し極端な例ではありますが、例えば日本では「今日はみんなでお鍋をやらない?」と言えば、「いいね!」「やろうやろう!」となると思います。しかし中国では、「鍋?鍋は入れ物でしょ。結局何を食べるの?」となるのです。

よく海外とのコミュニケーションでは曖昧な表現をしてはいけないと言われますが、本当にその通りで、誤解を生む以前に、単純に伝わらないのです。

また学習意欲も非常に高く、積極的です。日本ではオンリーワンを大事にする傾向もあると思いますが、中国ではナンバーワンを目指すマインドがあり、どんなことでも貪欲に学ぶ、という気概を感じます。こちらから教えようと近づかなくても、向こうから自発的に教えて欲しいと言ってくるのです。こうした積極性は、日本人にも持ってもらいたい要素ですね。

一方で、日本と中国で共通している部分も少なくありません。それこそ今回は、教育事業に関するプロジェクトでしたから、子どもの幸せを願う気持ちや、子どもを通じて自分自身も成長できること、そして子どもたちこそが未来を創っていくんだといった感覚は、日本と中国で全く違いがないことにも改めて気付きました。
教育事業を通じて子どもたちの未来を創るという世界共通の目標に向けて、日本と中国それぞれ立場は違いながらも、同じ方向を向いて仕事ができたことは、とても幸せでした。

ベネッセコーポレーション上海事業

スタンダードは普遍的なものではなく、移り変わる

このプロジェクトを通じ、デザインに対する様々な考え方・向き合い方を知る中で感じたのは、普遍的なデザインは存在しないということです。時代や文化を越えたスタンダードは存在せず、常に新しいものを生み出し拡げ続けていくことこそが、デザインにおけるスタンダード。少し哲学的でもありますが、デザインにおいては流動性こそが普遍性と言えるのではないでしょうか。

そういう意味では、日本人ももっと積極的に、知識を拾い、見聞を広めて欲しいと思います。自分自身を出しつつ、周りの要素も貪欲に吸収していく。そうして視野を拡げていけば、今までとは比べ物にならないくらい、多くの気付きを得ることができるでしょう。
今とは違う環境に、「身を置く」のではなく「身を沈める」。そうしなければ、相手のことを真に理解したり、自分自身を真に理解してもらうことはできません。そんなハングリーさがもっと浸透していけば、日本のデザインはもっと面白く、刺激的なものになるはずです。